今日の昼下がり。
部屋の机の前に座り、予備校の分厚いテキストを広げたまま、僕はぼけーっと窓の外を眺めていた。
今日の札幌の天気は一日中、雪。
風はほとんど無風状態。
午後の静寂の中に次から次へと舞い降りる粉雪。
それにしてもよく降るもんだなぁ。
容赦なく吹き荒れる雪は嫌だが、ただただ深々と降る雪はなんともいいものだ。部屋の窓から垣間見える雪景色は、まるで美しい絵画を見ているようだった。なんか大袈裟だけど、ホントにそう思った。
僕はそのまま10分くらい、ぼけーっと雪景色を眺めていた。
しばらくすると、その静寂の風景の右端から1人のおばちゃんが歩いてきた。
買い物にでも行くのかな?
なんて思いながら、僕はぼんやりとそのおばちゃんを見ていた。
寒さのせいか、少し足早に歩くそのおばちゃん。僕の眺めていた風景のほぼ中央まで来たとき、そのおばちゃんは見事にすっ転んだ。
ププッ。
僕は思わず吹き出してしまった。
完璧な間の取り方、完璧な位置取り、そして絵に描いた様な転びっぷり。擬音で表せば「スッコーン」って感じで転んだ。明らかに一瞬だけ重力の概念とかを超えてた。
転んだ後のおばちゃんは驚くほど機敏に起き上がり、辺りをキョロキョロしている。周りには誰もいない。
おばちゃんは何事もなかった様に、再び足早に風景の左端へと消えていった。
だが僕は見ていた。2階の自分の部屋からすべてを見ていた。
おばちゃんの渾身のワンメイクを。
そして神秘的にすら感じられた雪模様が、輝きを失っていくのを感じた。一見変わらぬ風景は、もう二度と美しい絵画には見えなかった。
か、返せ!風景返せ!
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